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「始まりのリュック」
大岡ひじり学園
山村留学指導員 横山みのり
冬の初め、北アルプスも雪化粧を始めたころ、横浜の実家に帰省したとき、母が古びた箱を持ってきた。「今のあなたに必要なものが入っているよ。」早速箱を開いてみると、中にはリュックが入っていた。それは私が育てる会の短期留学に参加した際に使っていたものだった。「何度も引っ越しをしたのに、よく残ってたねぇ。」私は久しぶりにその深緑色を手に取った。よくよく見てみると、赤い色で育てる会のマークが書いてあり、当時の記憶がだんだんとよみがえってきた。
当時の私は幼稚園の年長クラスで、母の勧めもあっての初参加だった。都心で育った私は里山の風景に憧れを抱いており、少しの不安と新しい挑戦に胸を膨らませながら、長野の山奥へ赴いたのだ。そこでは、テレビの中でしか見られなかった景色や、絵本でみた農家さんの暮らしが待っていた。広く豊かな自然の中での活動は、目に映るものすべてが新鮮で、私は初めての体験の数々に胸を躍らせた。
どこに行くにも背負って歩いた大きなリュック。時には夢中になって走り回り、転んだ私の背を力強く守ってくれた。帰るときには、汚れた服や手作りのお土産で、はち切れそうなくらいに膨らんだのだ。
迎えた最終日。新宿駅で母の姿を見たとたん、背中の重みがずっしりと肩に食い込んだ。家に着くまで決して降ろしてはいけないリュックはとても重くて苦しかったが、その時の私は、思いきり動き回った清々しさと、達成感に包まれて、晴れやかな気持ちだったのを覚えている。
あれから24年後、週末キャンプに短期留学と、沢山使っていたリュックは、色落ちも破れもなく、幼い頃の記憶と共に、再び私の前に現れた。それは、育てる会の輪に入り職員として働き始めた私に「もう一度、私と行こうよ」と語りかけてくるようだった。
それから私は、もう一度そのリュックを背負い、山留生たちと野山を駆け回っている。あの日の幼い私が感じた驚きと感動を、子どもたちにも伝えていきたいのだ。