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指導者だより

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大人の練習風景

山村留学指導員 松浦実穂

 夏前から、民謡の練習に参加させてもらっている。私が今教わっているのは「むぎや節」という民謡の笠(かさ)踊りだ。地域の方の仕事や夕飯の支度が終わる十九時頃、役場にある婦人会室へ向かう。

 練習に集まる地域のお姉さんやお母さん方は、皆優しく明るい。「この間は筋肉痛がひどかったよ」「今度の学校行事だけど...」和気あいあいと話が弾み、人が揃(そろ)うと練習が始まる。動きの形やタイミングなど、順を追って教わっていく。手足の伸ばし方、笠の回し方、視線の向きと、一つ一つ丁寧に指導が入る。踊りに対しての妥協はない。そうそう、昨年留学センターの体育館で初めて民謡練習を見せてもらったときにも、大人たちが真剣な表情でうたい踊る姿に惚(ほ)れ惚れとしたのだった...と思い出す。
 そういえば、五月の春祭りでの獅子舞もそうだった。地区の公民館へ練習に集まった大人たちは、和やかに挨拶を交わし、会話を交え、菓子をつまむ。ゆるりとした雰囲気かと思いきや、何度も同じ旋律を繰り返しながら、時には汗だくになって獅子舞を練習する姿があり、目を見張ったのだった。
 大人になり、仕事以外で真剣に練習することや、体で何かを表現する機会は少なくなった。利賀の人々も「いやいや、私なんて...」と謙遜はするけれど、いざ表現の場に立てば真剣そのものだ。指導する側、見守る側も集中して見つめている。こんな時、日頃は楽しく優しい大人たちに見える減(め)り張りの効いたかっこよさが、利賀の原風景の一つとなり世代を繋(つな)いできたのだと想像すると、なんだか清々しい。同時に、暮らしの苦楽だけでなく地域の性格や表現者の人となりまでも表すような伝統芸能の底力を感じずにはいられない。私にとって民謡や祭りの練習風景を知ることは、利賀の魅力をより体感できる手段になっていると思う。そして、練習に参加し教わることを通して、子どもたちとも共有していきたい利賀の魅力を、少しだけでも表現できるようになれたらと思う。















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