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「言語の師匠」
くらぶち英語村
山村留学指導員 今野利彦
私が英語村に勤め始めて一年四カ月が経った。新年度を迎えてから、私には大きな変化が一つある。英語村には指導員用の住宅があり、昨年度までの日本人住宅から、今年度はタイ人の職員がいる住宅に身を移した。理由は仕事で必要とされる英語力向上のためである。タイ人と暮らすことと英語力に関係があるのか、と思うかもしれない。しかし彼は、タイ語は勿論、英語も日本語も流暢に話し、更にはスラングまで熟知しているのだ。母国語ではない二カ国の言語を自在に操るコプカ(カー君)。私は彼の学習方法の秘密に迫りたいと思い、居を移す決心をした。
私は朝のルーティンの一環として、英単語学習をしていた。ごく普通の単語帳を広げ、単語を見て声に出す。彼はその姿を見て一言「don?t study」と口にした。私は彼の言わんとしていることが分からなかった。数週間後あることに気づいた。彼は全く勉強をしない。勉強どころか、毎日のようにゲームをしていた。私は「やってしまった。住む場所を間違えた......」と心の中で思った。その後も彼の様子を観察し、更にあることに気づいた。彼はゲームを通じ、オンラインで世界中の人と英語で会話をしていたのだ。私はこのとき「don?t study」の意味を理解した。一つは、英語は意思疎通のツールであり、学習が目的ではないということ。当然のことではあるが英語学習者が陥りがちな落とし穴だ。二つ目は自分が楽しめるコンテンツを通じて言語を学ぶことで、自然と言語が身に付くということ。彼は生活を通して言語が何かということを教えてくれた。
私は英単語帳の代わりにカー君と共通の趣味を一緒に楽しむことにした。毎日のようにランニング、毎週のようにハイキングを楽しむ。一カ月経つと変化が現れた。ふと気が付くと私は、アメリカ人、中国人、タイ人に囲まれ赤城山をハイクしていたのだ。ハイクを楽しみながら自然と言語が身に付いていくのを実感している。言語を学ぶことは机上で行う学習だけではない、ということを教わった。