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生きる力
大川村ふるさと留学
山村留学指導員 有坂亮祐
留学生を見送ったあと、事務仕事を片付け、気分転換にドライブに出かけた。この時代なので、車から出ることはほとんどないドライブだが、運転している最中に見かけた白い蕾に目を奪われる。「まだ一月だというのに早すぎないか」と思った。それから一瞬遅れ、電撃が走るようにある花のことを思い出す。
今年の四月。山村留学の始まる日に、留学生は「もう一度この花が咲く季節まで、同じ釜の飯を食べる人たちと頑張ろう」と願いを込めて、ミツマタの花を飯盒に挿した。
また、この花が咲こうとしているのだ。咲く、という単語は辞書で引いた言葉の解説以上の意味を持っていた。
去年の十月ごろ、卒論の研究で大川村に来ていた大学生と少しの間話す機会があった。
話の中で、「山村留学の仕事は楽しいですか?」と、聞かれた。「楽しくはないですね」と、正直に答えると虚を突かれたような顔をする大学生。誤解を生みかねない答えだと思った。急遽、返事の意味を紡ぎだす。「山村留学の仕事はやりがいのある仕事だとは思います。ただ、数年やっていると、どうしてもやりたくないことや向き合いたくないことはたくさん出てくる。子どもと接する仕事はとてもやりがいのあることだと思うけれど、感情的になるのを抑えることや子どもの意図を汲むことの大変さ、小さな自治体に一人で赴くことの厳しさの方がとても大きく、単純に〈楽しい〉とはとても言えない」。
かなり正確に、自分の気持ちと言葉の齟齬(そご)もなく話したつもりだったが、大学生の方は腑に落ちない様子だった。言葉だけではわかりにくいことだとも思う。
似たような話を留学生に聞かれ、同じように答えたことがある。その留学生のほうが話をすんなりと理解していた。山村留学の理念と通ずるところがあり、それを実際に経験している彼らの方が理解しやすかったのだろう。
私は、「生きる力」とはこういうことを指すのだと思う。