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歩くことに貪欲に

山村留学指導員 大山楽人

 収穫祭を終え、いつも以上に静かに感じる農家中のセンター。そして、八坂の景色もまた静かに冬を待っているように見える。
 二〇二〇年もあと一ヶ月。今年は、山村留学にとって大きな転機になっただろう。様々な制限に縛られる日々。当たり前にできていたことができないことへのもどかしさが子ども達から滲み出ている。

 『歩く』ことも制限されているうちの一つだ。今年は、生活面の制限以外にも、熊が頻繁に目撃されていることで、二学期はすべてバス通学になってしまった。はじめはバス通学で少し嬉しそうだった子ども達もここまで長く続くとさすがに「早く歩きたい!」「いつ歩けるの?」と嘆いている。
 収穫祭に向け、個人体験を進める中で、外へ出かけることもしばしばあった。その際、子ども達がこちらに尋ねることは、「歩いて行っていいですか?」だった。
 大人同行の元、万全な対策をし、許可をすると「やった!」と目を輝かせ足取り軽く出かけて行く。そんな姿を何度も見た。それ以外にも、歩いて出かける子を見ては、「どこ行くの? いいな」と歩いて出かける子を羨む子や「(犬の)散歩行ってきていいですか」など何かと理由をつけて歩きに行こうとする子もいた。以前よりも歩くことに対し、貪欲になっている子ども達。十二月に、長距離を歩く活動があることを伝えるとすると歓声が沸き起こるほどだった。
 そんな姿を見てると歩くことは大切だから歩きなさいとこちらが促さなくとも、子ども達は自然に歩くことを選択し、歩く目的を考えるではなく、本能のままにただ歩きたいから歩く。これが本来の子どもの姿なのだと改めて気づかされた。
 これから冬を迎え、熊の出現も減り、通学路も歩けるようになり、歩く機会が増えるだろう。雪の中、颯爽(さっそう)と駆け出していく子ども達を想像し、日常の中にまた『歩く』が戻ってくるように祈っている。















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