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「楽しい」が交わる
八坂美麻学園
山村留学指導員 松浦実穂
学園生が年間を通して取り組むものに、個人体験という活動がある。各々が、自分の関心に沿って、八坂・美麻だからこそできる体験を重ねていくものだ。十一月末の「収穫祭」で成果を発表する場を設けているので、秋口を過ぎると個人体験にも力が入る。
個々のテーマはバラエティに富んで面白い。木や花、虫を追いかけたり、キャンプや登山に挑戦して、自分の可能性を広げようとしたり。地域の魅力をもっと知りたいと地域のお宅を訪ねる子、自然物で工作をする子、そば打ちやおやき作り、豆腐作りをする子......。
個々の体験は、個々が「楽しい」だけに留まらない広がりを持つ。炭を焼いた子がいれば、別の子が囲炉裏(いろり)で使いたいとその炭をもらいに行く。竹箒を作ろうと竹をたくさん採ってきた子には、「竹細工用にもらっていい?」「竹の葉、燃料に使いたいな」と声がかかる。土器を焼くという子がいれば、「俺のも焼いて!」と数か月前に作った泥人形が持ち込まれたり。木登りが始まれば、「その葉っぱ採って」と高所の木の葉を落としてもらったり。他の子の作品を見て、「私も!」とちゃっかり隣で制作に取りかかる子もいる。焚火、食べもの、きれいなもの。面白そうなことは、次々と、集まる皆に共有される。皆の「楽しい」が交わるとき、そこに生まれる新たな発想は面白く、日頃の人間関係に、とらわれない賑やかさは心地良い。
収穫祭までの日を数えると、私はつい「自分の体験に集中して!」と厳しくなってしまいがちだ。けれど、学園生がここで得うるものは集中力や達成感、先人への感謝や尊敬の念だけではない。いろいろ見て、皆と交わりながら心を広げることもまた、大切な収穫なのだろう。
秋の空と、時にあちこちが煙るこの空気感。収穫祭に向かう、ちょっとした高揚感を学園生が前向きに過ごせるよう、彼らの「楽しい」を大切に見守りたい。