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指導者だより

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猿と畑と

山村留学指導員 松浦実穂

「猿ってのは、嫌だね」。夏野菜が実り始めるこの時期、八坂・美麻ではこんな声が切実さを帯びる。猿の被害は何年もの間この辺りの課題だ。大町市は今年度、七百万円もの予算を有害鳥獣対策の強化に充てているし、八坂の中学校では、昨年猿を追い払う体験学習をしていた。田畑には柵が年々増えている。私たちだって、猿が出れば騒いでみたり、花火やエアガンを打ってみたり。何にせよ追いついていないのが現状だ。

 今年度、学園の畑に猿の被害は比較的少なかった。近くで工事があり、大きな音や作業をする方々の姿が連日猿を遠ざけていたらしい。しかし工事が終わると、見計らったように猿が来て、芋やネギ、ズッキーニを片っ端からかじり、ヤーコンやパセリやキャベツの株を全て掘り返してしまった。学園生の野菜が無残に食い荒らされた姿を見ると、「猿のやつ...」とやるせない落胆と恨みが湧く。
 先日、そんな猿の話をしていた時のこと。「しょうがないよね、あっちは生きるのに本気だもん」と知人が呟いた。農業を生業にするその人が猿に対してあまりにもフラットにそう言うので、私は何だかはっとした。猿が畑に来るのは、ただ生きるための一手段。猿にとって、畑と自然に境界は無いのだ。
 人にとっても同じかもしれない。畑作は、人が自然から命をもらうための一手段だ。畑を作ることは、害獣や雑草、害虫や病気、悪天候も全部含めた自然の中に身を置くことでもある。祈り、感謝し、時には闘う対象としての自然を指針に、生きるため、人が努力と知恵を重ね続けるのが農作業だと、改めて教えられた思いだった。
 学園生に収穫の喜びを知ってほしいという思いは変わらない。けれど、収穫できなかったときの落胆もまた、学園生と一緒に分かちあっていこう。そして、懲りず猿に、畑に向かっていこうと、素直に思えた瞬間だった。















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