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心の収穫作文より
三瓶こだま学園
山村留学指導員 岡坂遼
一年の山村留学も中盤の十一月。毎年この時期になると留学生は、これまでの自分の成長を振り返る「心の収穫作文」を書きます。
ある学園生がこんなことを書いていました。「地元にいた時には周りに人が沢山いて、関わる人は多かったけれど、山村留学に来てからのほうが、深く関わった人の数は多かった。色々な行事を通して、学校の子、農家さん、地域の方々と関わる事で、人の気持ちが分かるようになった。」
センターのある地区の人口と、その子が育った都市部の人口は比べるまでもありません。「周りにいる人の数」と「深く関わった人の数」は比例しないという、その子の鋭い指摘とその切り口から語られる成長の振り返りは目を引くものがありました。
霊長類が社会関係を維持できる上限人数と脳の大きさには相関があるという研究があります。それを現代人に当てはめると、大体百五十人という数になるそうです。
都市での生活や、SNS等での繋がりから、人の集団のサイズは大きくなったかのように錯覚しがちですが、実際、現代人の身体的な能力としてはまだ百五十人という集団の中に生きているということです。
この数に含まれるのは、一緒に同じ経験をしたり、食を共にしたりといった身体的なコミュニケーションを交わしながら、持続した関係を保ち続けられる人だそうで、この子どもの成長のきっかけとなった「深く関わった人の数」とは、このことなのだと思います。
便利な社会になったことで、人対人の身体的なコミュニケーションの機会は確実に減っています。その一方で、インターネット、SNSなどのサービスでは何百、何千という膨大な数の人たちと繋がることができます。
生活の効率化と社会の情報化において人間の身体的能力は板挟みになっています。そんな局面にあって、身体的なコミュニケーションの場が色濃くあるこの地域が、本来の人間らしさを引き出してくれることを強く実感しています。