『イナゴブーム到来』
神河やまびこ学園
山村留学指導員 水落碧衣
「あおいさん、イナゴを食べてみたいです!」。イナゴで大きく膨らんだ軍手を手に、一人の子どもが私のもとへやってきた。以前私が子どもたちに「虫は食べるとおいしいんだよ」と言ったことを覚えてくれていたらしい。
昆虫食は昔、たんぱく源である肉や魚が手に入りづらい地域でさかんに行われていた。食べられなさそうな見た目に反し、濃厚で美味であるが、そもそも虫という存在自体が忌み嫌われていることが多いので、虫を食べるなんて想像がつかない人が多いのではないだろうか。
私は長野県での留学生時代にイナゴの佃煮やジバチ(セグロアシナガバチ)の幼虫を食べたことがあり、昆虫は大好物だ。なので、この時の私は何もためらうことなく「いいよ、食べてみよう」と返事をした。
体内に糞が残っていると苦みが残りおいしくないので、通気のよい紙袋に入れて脱糞させ、口の中で引っかかりやすい翅と後肢をちぎる。素材の味をいかすなら、と素揚げにしていただいた。
イナゴそのままの形に最初は「うっ......」とうめき声をあげていたが、思い切って口に入れると「あっ、えびせんべいだ......おいしい!」次々とイナゴを口へ放り込んだ。
それを見た他の子どもたちが「何食べているの?」「少しちょうだい!」と押しかけてきて、センター中大騒ぎに。「そんなに欲しいなら自分でイナゴを捕まえてきなさい!」と言うと、なんとほぼ全員がビニール袋を片手にセンターを飛び出し、30匹近くのイナゴを持って帰ってきたのである。
誰も嫌がることなく、イナゴを脱糞させ、足と翅をもぎ、油で揚げている。できあがったイナゴを食べ、「おいしいね!」と笑顔で語り合っている。最初は嫌がっていた子も「食べてみなよ!
おいしいよ!」と誘われて恐る恐るイナゴを口に入れ、「おいしい!」。
一人の子どもから体験が広がっていく様子、子どもたちから貴重な体験をさせてもらった。