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心のよりどころ
山村留学売木学園
山村留学指導員 高木陽光
「それじゃあ、行ってきます!」と、学園生は笑顔で叫んだ。夏休みに入ったため、実家に帰省する日がやってきたのだ。センターの生活では、我慢することが多い。テレビ、ゲーム、マンガ。何より家族だ。一学期が始まった頃は家族と会えないことが辛くて、全員一回は涙を流した。しかし今では泣く子のほうが少ないだろう。
遠い記憶の彼方に、自分もホームシックで泣いたことを思い出した。センターのみんなとはまだ仲良くない、学校では名前を覚えるのにやっと。一人の時間がとても切なく、特にセンターの掃除で泣いていた。子どもにとっての一学期間、約四か月はかなり長いもので、その途方のない時間に耐えられなかった。センターや学校の生活に慣れてきて二週間ほどで収まったがその時の感覚はよく覚えている。
子どもたちがセンターを自分たちのもの、と認識するまでには時間がかかる。今までにも、新しい習い事や、新しいクラスに変わるたびに自分たちのものとして認識を変えてきたはず。しかし山村留学に来ると、家族のような大きなバックボーン無しで、生活しなければならない。それがとてつもない不安を煽(あお)るのだ。経験したことのない環境の変化が子どもたちに大きく影響を与える、これは自分の経験からではなく大人になった今、学園生を見て感じている。
自分にはまだ子どもがいない。山村留学を親として経験していないので、どのような思いで子どもから離れているか、一〇〇%分かるわけでもない。しかし保護者会などで少しずつだが、親のほうが子どもと離れるのが大変ということが分かった。
心のよりどころ、それは単なる場所ではなく、人の心ということもわかってきた。それはきっと増える度に、人として成長させてくれるものだと思う。
家から離れても、センターを修園して離れても、それぞれ一番の心のよりどころではなくなるかもしれないが、人生を変えたという事実は変わらない。