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「冬が恋しい」

山村留学指導員 有坂亮祐

 春がやってくる。子どものころから冬の寒さが、春の暖かさに変わる瞬間を待ち焦がれていたはずなのに、どういうわけか今年は春が待ち遠しくはなかった。
 今年の冬は暖かかったように思う。指が痛くなるほどの寒さの中でラジオ体操をした覚えもないし、冬に屋外で震えながら漬物をつくることもなかった。暖かい冬に対して、どこかありがたみを感じていた。

 暖かいとはいえ、山村の夜や明け方は冷え込んでいる。子どもが学校から「寒い寒い!」と言いながら帰ってくることもあるし、路面が凍結した通学路で転んでしまうこともある。都心のほうから来た子どもたちからは普段は体験しようもない寒さなのだ。
 つららを折って剣のように振り回す子や凍結した路面を逆手にとって靴のまま滑って登校する子の様子を眺めると、山村留学らしさを感じる。今の留学生の目にこの季節はどう映っているのだろう。冬にしかできない遊びが楽しくてたまらないのか、それとも、寒さに凍える冬よりも暖かい春が訪れる方がいいのか。
 私は断然後者なのだが、今年は少し違う。徐々に気温が高くなり、雪よりも雨が降る割合のほうが多くなる。春が近づいてきたことが明らかになって初めて、冬が恋しくなった。正確にいえば「冬が恋しい」というよりも「春が恋しくない」だろうか。暖冬だった分、春へのありがたみが薄れてしまったのだ。
 凍てつく寒さに耐え続け、ようやく訪れた暖かさが、なんの苦もなく手に入ってしまう。あまりの味気のなさに、もやもやした気分が残る。冬の寒さが、どれだけ春を恋焦がれるものにしてくれていたのだろう。
 山村留学の目標は「不」に耐えること。センターでの生活は、不平、不満、不足など、たくさんのことに耐えねばならない。たくさんの「不」に耐えた結果、今まで当たり前だったことへの見方が変わる。「不」に耐えることへの大切さを再認識した。















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